感情の小部屋から覗く、人生を描く

interviewee MIKIKO

──企画を聞いた時の感想は?

真樹さんからとても思いの伝わる丁寧な依頼メールをいただき、ぜひやりたいとお返事しました。他の振付家の方々も尊敬している方々ばかりだし、なにより、私はイレブンプレイ以外のダンサーの方にソロの振付をしたことがないんです。ちょうど私自身も新しいチャレンジがしたいと考えていた時期と重なり、迷いもなくお受けしました。

真樹さんはおそらく、『運命』という楽曲を選ばれている時点で相当覚悟していると思うんです。私もその想いに便乗して新たな自分を発見したいという気持ちになりました。誰もが知っている第一楽章を振り付けることはプレッシャーでもあり、真樹さんと同じく私にとっても大きな挑戦なのでドキドキしています。

──振付のテーマはありますか?

稽古を始める前に、真樹さんの人生観や今何を感じているか、そして「運命」という楽曲を選んだ理由などについて伺い、それを素直に振付けに反映するつもりです。もちろんベートーベンの背景をしっかり学んで振付するという作り方もありますが、今回は『運命』をまったく初めて聞いた楽曲ととらえて「森下真樹の運命」をどう演出したいかに集中しました。
曲から感じる強烈な力と抑揚を真樹さん自身の人生のストーリーに乗せられたらと思っています。

──踊り手が真樹さんということで、振付にあたり意識したことはありますか?

真樹さんの踊りを初めて観に行ったのが2013年の『錆からでた実』。その時に、形(かた)がないようでしっかり形(かたち)のあるダンスだなと感じました。喋りながら踊るシーンでは言葉と動きのハマリ方と間合いが気持ち良いし、しぐさを踊りに変換するのがうまくて、手の使い方ひとつとっても共感できるとても素敵なダンサー。その時に客観的に感じた印象を忘れずに引き出したい。あまり私の色にならないように、4人の振付家が違う振付をしても「真樹さんが踊ると真樹さんになるんだ」と感じていただけると面白いかなと思っています。

──ソロダンスの振付に挑戦してみて、これまでの振付との違いはありますか?

私の仕事のほとんどは大人数だったり歌の見せ場が決まっていたりと、ルールに則って動きをつくることが多かったので、しっかりと下準備をして振りを決めていました。けれど今回は踊り手と会話しながら一緒にじっくりと作っていく。真樹さんから出てくる動きを広げて振付にしたり、真樹さんの気持ちを言葉にしてもらってそれをもとに振りを作ったりと、二人でキャッチボールをしながらつくっているんです。その様子はまさに、第四楽章を振付ける笠井先生が日頃よくおっしゃっている『振付関係』という言葉にぴったり。20年ダンスのお仕事をしてきて改めて「振付師とダンサーの関係から振付ができるというのはこういうことか」と感じています。
とても豊かな製作の時間を過ごせています。

──いつもと違う振付方法ということで、戸惑いなどありませんか?

実は私のダンス人生のスタートはモダンバレエだったので、音にハメて振りをつくるよりも、その場でどういう動きが起きていた方がいいかが先にきまり、それを音楽に当てていくというつくり方だったんです。その時のことを懐かしく感じながらつくっています。真樹さんを見ればどんどん振りがでてくるし、真樹さんはどんな振りを渡してもその動きを解釈して隙間を埋めてくれ、どんな行間が気持ち良いかのやりとりが出来る。とても理想的な環境です。

──MIKIKOさんと森下さんだからこそうまれる振付なんですね

私のダンスはクセのある振付だと言われることがありますが、やっぱり踊る方に影響されて振りが産まれるという作り方が理想です。今回は、楽曲や誰が踊るかということにどれほど自分が引っ張られるのかを確かめたかったプロジェクトでもあるんです。ですから今、稽古の中でダンサーと振付家の『振付関係』を確かめる作業ができているのでとても幸せな空間です。ただしそれは踊り手に想像力とテクニックがないと成立しないこと。私が振付をずっとやってきて何周もまわって行きついた結論を確かめるという作業は、真樹さんという素晴らしいダンサーだからこそできていることだと思います。

これまでずっと振付を人に渡すというアウトプットをしてきて、もっともっとインプットをしたいと感じていました。舞台やコンサートに行ったり、海外に行ったりと仕事以外の場からインプットはしていましたが、今回のように振付をしながら学びを得るという機会はなかなかないんです。息を吐きながら吸っている……まるで呼吸のような時間です。

──第二〜四楽章のことはどれくらい意識しているんですか?

聞いたところによると全員全くつくり方が違うようなので、意識するのはやめました。
でも最終的にはすべて繋がって見えることになりそうな予感はあります。

──MIKIKOさんにとって『運命』とは?

全部、ですね。小さな頃から何に対しても「すべてははじめから決まっているんだろうな」という感覚があって、それは諦めとはまた違って覚悟できているというか、自分でも不思議な感覚なんですけど確信に近い何かがあって、それに身をゆだねている生き方をしてきました。先の目標も決めたことがないし、こうなりたいというビジョンも決めないようにしています。だからなにが起こっても「必然な出来事」と思えたり、他人と意見が対立しても「この人はそう考えるのか。自分と同じなわけはないよな」と受け流せるところがあります。自分の人生を客観的に見ながら目一杯楽しませてもらっているというか。だからきっと、自分が前に出て踊るより、人になにかを渡すことが向いているんだろうな。やっぱりダンサーの真樹さんはしっかり自分があって思いきりぶつかってきてくれますから。

取材・文・写真 / 河野桃子

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