運命に挑む

interviewee 森下真樹

──なぜ『運命』を踊ろうと思ったのですか?

2016年に可児市(岐阜県)で、市民約40人と『運命』全楽章を地元の交響楽団の生オーケストラで踊るという約半年間のプロジェクト「オーケストラで踊ろう!」で振付・構成・演出を担当しました。最後の日に半年間の思いが感極まって客席で泣いてしまったんです。その時に「今度はこれを一人で踊ってみたい」と思いました。『運命』という誰もが知っている楽曲に臨むことは覚悟がいりますが、全楽章をアカペラで歌えるほど聞き込んでいる曲は他にはありません。いろんな曲があるなかで出会い、「『運命』をやります」と決めたのは私。
だからとことん付き合うしかない。それこそ運命ですね。

──振付家の4名はどうやって選ばれたのですか?

これまで自分で自分に振付することが多かったので、もっと自分に新しい風を吹かせたくて、ずっと一緒にやりたいと思っていた振付家さんやスタッフの方に声をかけました。

MIKIKOさん(第1楽章)は憧れの存在で、私とは表現の仕方が違うけど、どこか共通するものを感じていました。森山未來さん(第2楽章)はミュージカル『100万回生きたねこ』で共演して以来圧倒的な表現力を持つ人だと感じてずっと追いかけていて、今回「振付に興味ないですか」とお願いしました。振付は初めての挑戦のようです。
笠井叡さん(第4楽章)は以前作品に出演させていただき、学ぶことが多くいずれはソロの振付をしていただきたいと思っていました。どの方も、これまで面識はあるけれどより深く関わりたいと温めていた方々です。
写真家の石川直樹さん(第3楽章)だけは初めてお会いしました。私とは違う分野で世界を見てきた人の視点が欲しいと思ったことと、命がけの冒検をされている方なので『運命』という言葉にぴたりとハマったんです。

──写真家の方がどのようにダンスの振付をおこなうのか気になります

「振付と言われても・・・」と一度は断られかけましたが、まだ見ぬ未知の世界に好奇心を持ち飛び込んできてくれました。さすが冒険家です。初めてお会いした時に「富士山に登ったことはありますか?」と聞かれ、「ありません」と答えると「じゃあ登りましょう」と誘われました。流されるままに富士山に登りましたが、そこでの体験が今回の公演に強く反映されています。

4人の方に振付ていただくことは、ダンサーとしてはもちろん振付家としても興味があります。世界観の全く違う方々が“森下真樹”というひとつのカラダにどうアプローチしてくるのか・・・おそらく見たことのない自分が見られる気がしています。やっぱり、どうなるかわからないということは楽しいですね。

──どの振付家が何楽章を担当するかはどうやって決めたのですか?

直感です。

MIKIKOさんは曲を分析して細かい動きをはめていくような緻密な作業をされる方だという印象があったので、誰もが聞いたことのある第一楽章にどうその緻密な動きが入ってくるのか興味がありました。淡々としながら起伏のある第二楽章にはいろいろな可能性があると感じ未來くんが合いそうだなと思い、石川さんには第四楽章へ向かって登っていくまさに登山のような三楽章を、笠井さんには終わりへと向かう最後の楽章をお願いしました。

振付家の異なる4つの楽章がどうやってひとつの作品になるのか楽しみです。四者四様の世界を旅し、全楽章を通した最後には、すべてが繋がる予感がしています。『運命』という楽曲を通しておこなわれる振付家同士の共演も楽しんでいただければと思います。

──実際に稽古をしてみていかがですか?

4名それぞれ創り方は違うけれど、稽古場で振付家とダンサーがキャッチボールを積み重ねていくことは同じ。森下真樹というダンサーにしかない踊りを生む作業をしていただいています。振付家に委ね、私は真っさらな気持ちで何色にでも染まるつもり。とにかく必死で向き合っています!

──『運命』は誰しも聞いたことのある曲なので、観客ひとりひとりがイメージを持っているはず。
あえてその曲に挑戦することについては?

自分が振付をする時はまず無音のなかで動きをつくります。そしてそれをいろんな曲に当てはめて踊ってみたりするんです。すると「この曲と合わせるとこんなふうに見えるんだ」と思うほど、動きが音楽に演出されてしまう。音の力はとても強くて、どんな振付をしても音楽に支配されてしまうもどかしい気持ちが常にある。音楽には敵わない!音楽になれたらいいのに!と思いますよ。そんな時に『運命』という絶対的な音楽に出会ってしまった。出会ってしまったからには踊るしかない。あえて力の強い曲で踊ることで、私自身が“音”そのものになれたらいいですね。

──森下さんにとって『運命』とは?

運命……さだめとは「切り拓く」「掴み取る」というイメージがありました。30代は目の前のことを少しでも良い方向に持っていこうとがむしゃらにやり散らかしてきたんです。でも40代に入り、この散らかったものの中からより深めたいものを選んで向き合っていきたい。そのためには流れに身を任せて受け入れることも必要だと感じるようになりました。自分の力で選んできた感覚もありますが、出会うべくして出会った人と繋がっていく中でベストな選択をした結果が今なんでしょう。それが『運命』なのかもしれません。

取材・文 ・写真/ 河野桃子

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